こんにちは!
サラリーマン税理士のりゅうです。
今回は、フリーランス等が交通費等を立替払いした場合の精算について、源泉徴収が必要かどうかというお話です。
フリーランスの皆さん、交通費等を立替払いしたとき、領収書の宛名は誰でもらってますか?
個人宛ですか?それとも会社宛ですか?
会社側の事務処理においても、フリーランス側の処理についても、源泉徴収の要不要のミスが多いようですので、気を付けたいところです。
結論
取扱い
実態として会社が交通機関等に直接支払うケースと同視できれば、源泉徴収は不要です。
・会社が交通機関等に直接支払うケース→源泉徴収不要
・フリーランス等が立替払いを行い会社宛の領収書に基づき精算するケース→源泉徴収不要
・フリーランス等が立替払いを行い個人宛(上様、宛名なし)の領収書に基づき精算するケース→源泉徴収必要
フリーランス等の税務上の論点
消費税(簡易課税)のことを考えると、会社に直接支払ってもらうか、会社宛の領収書をもらった方が良いと考えられます。
所得税
・会社が直接支払うケース→関係なし
・フリーランス等が立替払いを行ったケース(領収書会社宛)→単なる立替のため影響なし
・フリーランス等が立替払いを行ったケース(領収書個人宛)→両建で影響なし、源泉税は申告時に精算
消費税
・会社が直接支払うケース→関係なし
・フリーランス等が立替払いを行ったケース(領収書会社宛)→単なる立替のため影響なし
・フリーランス等が立替払いを行ったケース(領収書個人宛)→原則課税は両建で影響なし、簡易課税は消費税増
原則は源泉徴収が必要
フリーランス等や税理士等の士業(以下、「フリーランス等」と記載します)に支払う交通費等は、報酬・料金や顧問料等として扱われ、会社側に源泉徴収義務が生じます。
したがって、フリーランス等が電車代や宿泊代を支払い、会社にそれを報酬・料金等と一緒に請求した場合は、原則として源泉徴収が必要となります。
(源泉徴収義務)
所得税法第二百四条
居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
一 原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金
二 弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
三~省略(報酬、料金等の性質を有するもの)
所得税基本通達204-2
法第204条第1項第1号、第2号及び第4号から第7号までに掲げる報酬、料金又は契約金の性質を有するものについては、たとえ謝礼、賞金、研究費、取材費、材料費、車賃、記念品代、酒こう料等の名義で支払うものであっても、同項の規定が適用されることに留意する。
会社が直接支払うケース
例外的に、会社が交通機関等に「直接支払う旅費・交通費等(通常必要であると認められる範囲のもの)」については、報酬・料金や顧問料等に含まれず、源泉徴収をしなくても差し支えないこととなっています。
したがって、フリーランス等の宿泊代を、会社が直接ホテルに支払う場合には、報酬・料金等に該当しないため、源泉徴収は不要です。
(報酬又は料金の支払者が負担する旅費)
所得税基本通達204-4
法第204条第1項第1号、第2号、第4号及び第5号に掲げる報酬又は料金の支払をする者が、これらの号に掲げる報酬又は料金の支払の基因となる役務を提供する者の当該役務を提供するために行う旅行、宿泊等の費用も負担する場合において、その費用として支出する金銭等が、当該役務を提供する者(同項第5号に規定する事業を営む個人を含む。)に対して交付されるものでなく、当該報酬又は料金の支払をする者から交通機関、ホテル、旅館等に直接支払われ、かつ、その金額がその費用として通常必要であると認められる範囲内のものであるときは、当該金銭等については、204-2及び204-3にかかわらず、源泉徴収をしなくて差し支えない。
フリーランス等が立替払いを行ったケース
フリーランス等が立替払いを行い精算する場合は、領収書の宛名によって取扱いが異なります。
会社宛の場合
領収書が会社宛の場合、実際に会社から交通機関等へ直接支払われてはいませんが、会社宛の領収書であることから、実態として会社が直接支払うケースと同視できると考えられるため、報酬・料金等には該当せず、源泉徴収は不要です。
会社側は、その会社宛の領収書に基づいて経理処理するため、フリーランス等から受領した領収書の保管が必要です。
個人宛の場合
立替払いをしても、領収書が個人(フリーランス等)宛の場合には、会社が交通機関等へ直接支払うケースとは同視できないため、報酬・料金等に該当し、源泉徴収が必要となります。
フリーランス等は、その個人宛の領収書に基づいて経理処理するため、その領収書の保管が必要です。
会社へ提出する場合は、その領収書のコピーを提出しましょう。
※宛名が「上様」と記載されている場合や、「宛名なし」の場合は、会社が直接支払うケースと同視できるとは言い難いため、原則通り源泉徴収が必要となります。
所得税(経理処理)の取扱い
源泉徴収が不要の場合
会社が直接支払うケース
会社が交通機関等に直接支払うケースでは、フリーランス等の売上・経費には何ら関係がないため、何も生じません。
フリーランス等が立替払いを行ったケース(会社宛)
会社が交通機関等へ直接支払うケースと同視できるため、報酬・料金等には該当しないことから、単なる立替として処理します。
したがって、損益に何ら影響は生じません。
源泉徴収が必要な場合
フリーランス等が立替払いを行ったケース(個人宛)
会社が交通機関等へ直接支払うケースとは同視できないため、報酬・料金等に該当することから、支出分は経費として計上し、同額の精算額は売上として計上します。
したがって、売上と経費に同額が計上されるため、損益に何ら影響は生じません。
源泉徴収された所得税は、確定申告時に精算されます。
消費税の取扱い
源泉徴収が不要の場合
会社が直接支払うケース
会社が交通機関等に直接支払うケースでは、フリーランス等の売上・経費には何ら関係がないため、何も生じません。
フリーランス等が立替払いを行ったケース(会社宛)
会社が交通機関等へ直接支払うケースと同視できるため、報酬・料金等には該当しないことから、単なる立替として処理します。
したがって、消費税計算に何ら影響は生じません。
源泉徴収が必要な場合
フリーランス等が立替払いを行ったケース(個人宛)
会社が交通機関等へ直接支払うケースとは同視できないため、報酬・料金等に該当することから、支出分は経費として計上し、同額の精算額は売上として計上します。
この場合、売上と経費に同額が計上されるため、売上の消費税から仕入の消費税を差し引いて納税額を計算する原則課税については、特に影響はありません(売上消費税額=仕入消費税額)。
しかし、簡易課税については、売上のみで消費税を計算するため、「会社が直接支払うケース」と「フリーランス等が立替払いを行ったケース(会社宛)」の場合と比べ、その売上(精算)分だけ消費税が増加します。
「同じ金額が計上されるなら相殺してしまえばよい」と思われるかもしれませんが、消費税法上、対価として収受した金額を計上すると定められているため、純額ではなく総額で消費税計算を行わなければなりません。
(課税標準)
消費税法第二十八条
課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。以下この項及び第三項において同じ。)とする。ただし、法人が資産を第四条第五項第二号に規定する役員に譲渡した場合において、その対価の額が当該譲渡の時における当該資産の価額に比し著しく低いときは、その価額に相当する金額をその対価の額とみなす。(譲渡等の対価の額)
消費税法基本通達10-1-1
法第28条第1項本文《課税標準》に規定する「課税資産の譲渡等の対価の額」とは、課税資産の譲渡等に係る対価につき、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他の経済的利益の額をいい、消費税額等を含まないのであるが、この場合の「収受すべき」とは、別に定めるものを除き、その課税資産の譲渡等を行った場合の当該課税資産等の価額をいうのではなく、その譲渡等に係る当事者間で授受することとした対価の額をいうのであるから留意する。(平9課消2-5、平27課消1-17により改正)
(注) 同条第1項ただし書又は第3項《資産のみなし譲渡》の規定により、法人が役員に対して著しく低い価額で資産の譲渡若しくは贈与を行った場合又は個人事業者が棚卸資産又は棚卸資産以外の資産で事業の用に供していたものを家事のために消費若しくは使用した場合には、当該譲渡等の時におけるその資産の価額により譲渡があったものとされる。
あとがき
今回はフリーランス等の経費精算に関する内容でした。
正直、ここまで意識することはありませんでしたが、改めて今後の実務において気を付けようと思った次第です。
フリーランスの方は、取引先との契約において、どこまで経費を立て替えてもらえるのか事前に打ち合わせをしておくと良いかもしれません。