相続があった場合の未支給年金(公的年金)の取扱い

こんにちは!
サラリーマン税理士のりゅうです。

今回は、相続発生後の被相続人(亡くなった方)の公的年金についてのお話です。

公的年金は、2ヶ月ごとに2ヶ月分をまとめて支給されます。
そのため、相続があった場合に、未支給分の公的年金を
・被相続人の収入(未収金)として準確定申告に含めるのか
・相続財産として相続税申告に含めるのか
・受け取った相続人の収入になるのか
など、どのように取り扱うか迷う方も多いのではないでしょうか?

これから、この相続があった場合の公的年金の未支給分について、簡単に解説していきます。
毎度のこと根拠条文を載せていますが、読み飛ばしてOKです!

公的年金の支給の仕組み

国民年金や厚生年金などの公的年金は、偶数月の15日にその前月・前々月の分が当月に2か月分まとめて支給される仕組みとなっています。

年金は、日割り計算ではなく月割り計算ですので、その月を1日でも経過していれば、1ヶ月分全額が支給されます。
したがって、年金受給者が死亡した場合には、支給が翌月以降になるため必ず未支給の年金が発生します。

<通常>
6・7月分→8月15日に支給
8・9月分→10月15日に支給

<偶数月(8月20日)に死亡>
6・7月分→8月15日に支給
8月分→未支給年金

<偶数月(8月5日)に死亡>
6・7月分→未支給年金
8月分→未支給年金

<奇数月(9月5日)に死亡>
6・7月分→8月15日支給
8・9月分→未支給年金

未支給の年金は、遺族が受け取ることができますので、忘れずに年金事務所へ『受給権者死亡届(報告書)』を提出して、未支給年金を請求しましょう。
『年金を受けている方が亡くなったとき(日本年金機構HP)』へ

また、亡くなってから手続きをする前に、ちょうど支給日が到来して亡くなった方の口座に年金が振り込まれる場合があります。
このように死亡後に振り込まれた場合でも、未支給年金として取り扱います。

未支給年金は準確定申告に含めるのか

結論から言うと、未支給年金は準確定申告には含めません。

確定申告をすべき方が年の途中で亡くなった場合、亡くなってから4ヶ月以内に相続人が代わりに確定申告を行う必要があります。
通常の確定申告と区別するため、これを「準確定申告」といいます。

(確定申告書を提出すべき者等が死亡した場合の確定申告)
所得税法第百二十四条
第百二十条第一項(確定所得申告)の規定による申告書を提出すべき居住者がその年の翌年一月一日から当該申告書の提出期限までの間に当該申告書を提出しないで死亡した場合には、その相続人は、次項の規定による申告書を提出する場合を除き、政令で定めるところにより、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から四月を経過した日の前日(同日前に当該相続人が出国をする場合には、その出国の時。以下この条において同じ。)までに、税務署長に対し、当該申告書を提出しなければならない。
(年の中途で死亡した場合の確定申告)
所得税法第百二十五条
居住者が年の中途において死亡した場合において、その者のその年分の所得税について第百二十条第一項(確定所得申告)の規定による申告書を提出しなければならない場合に該当するときは、その相続人は、第三項の規定による申告書を提出する場合を除き、政令で定めるところにより、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から四月を経過した日の前日(同日前に当該相続人が出国をする場合には、その出国の時。以下この条において同じ。)までに、税務署長に対し、当該所得税について第百二十条第一項各号に掲げる事項その他の事項を記載した申告書を提出しなければならない。
(死亡の場合の確定申告による納付)
所得税法第百二十九条
第百二十四条第一項(確定申告書を提出すべき者が死亡した場合の確定申告)(第百二十五条第五項(年の中途で死亡した場合の確定申告)において準用する場合を含む。)又は第百二十五条第一項の規定に該当してこれらの規定に規定する申告書を提出した者は、これらの申告書に記載した第百二十条第一項第三号(確定所得申告に係る所得税額)に掲げる金額があるときは、これらの申告書の提出期限までに、当該金額に相当する所得税を国税通則法第五条(相続による国税の納付義務の承継)に定めるところにより国に納付しなければならない。

準確定申告ては、通常の確定申告と同様に所得を計算し、申告・納税する必要があります。
このとき、相続人が支払った所得税は、被相続人の債務(公租公課)として財産から控除することができます。

(債務控除)
相続税法第十三条
相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
二 被相続人に係る葬式費用

全ての方が準確定申告の対象というわけではありませんので、申告の要否を判断しなければなりません。
年金のみの方で、準確定申告が必要かどうかは、こちらの記事を参考にしてみてください。
年金受給者の確定申告は必要?~給与がある場合や年金が高額の場合は気を付けましょう~

話を元に戻して、未支給年金を準確定申告に含めない根拠ですが、それは国民年金法19条及び厚生年金保険法37条により、未支給年金は遺族の生活保障を目的とした立場からその遺族が「自己の固有の権利」として請求するものと解釈し、「相続財産には含まない=準確定申告には含まない」という考え方になります。

準確定申告に含む(亡くなった方の収入として認識する)ということは、亡くなった方の遺産に含まれる(相続財産として認識する)ということですので、未支給年金はこのような取り扱いはしないということになります。

国税庁ホームページの質疑応答事例でも、相続税の課税対象とはならない旨の回答が出されています。
未支給の国民年金に係る相続税の課税関係(国税庁HP)

(未支給年金)
国民年金法第十九条
年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。
2 前項の場合において、死亡した者が遺族基礎年金の受給権者であつたときは、その者の死亡の当時当該遺族基礎年金の支給の要件となり、又はその額の加算の対象となつていた被保険者又は被保険者であつた者の子は、同項に規定する子とみなす。
3 第一項の場合において、死亡した受給権者が死亡前にその年金を請求していなかつたときは、同項に規定する者は、自己の名で、その年金を請求することができる。
4 未支給の年金を受けるべき者の順位は、政令で定める。
5 未支給の年金を受けるべき同順位者が二人以上あるときは、その一人のした請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。
(未支給の保険給付)
厚生年金保険法第三十七条
保険給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき保険給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の保険給付の支給を請求することができる。
2 前項の場合において、死亡した者が遺族厚生年金の受給権者である妻であつたときは、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた被保険者又は被保険者であつた者の子であつて、その者の死亡によつて遺族厚生年金の支給の停止が解除されたものは、同項に規定する子とみなす。
3 第一項の場合において、死亡した受給権者が死亡前にその保険給付を請求していなかつたときは、同項に規定する者は、自己の名で、その保険給付を請求することができる。
4 未支給の保険給付を受けるべき者の順位は、政令で定める。
5 未支給の保険給付を受けるべき同順位者が二人以上あるときは、その一人のした請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。

未支給年金は相続財産に含めるのか

結論から言うと、未支給年金は相続財産には含めません。
上述の『未支給年金は準確定申告に含めるのか』でも記載しましたが、準確定申告に含まないということは、相続財産にもなり得ないということになります。
そうなると、遺族が受け取った未支給年金には税金がかからないのかというと、そういうわけではありません。

遺族が受け取る未支給年金の取扱い

未支給年金は、遺族の「自己の固有の権利」となるため、相続財産には含まれませんが、受け取った遺族の「一時所得」に該当することとなります。
これは、所得税基本通達34-2によって定められています。

(遺族が受ける給与等、公的年金等及び退職手当等)
所得税基本通達34-2
死亡した者に係る
給与等、公的年金等及び退職手当等で、その死亡後に支給期の到来するもののうち9-17により課税しないものとされるもの以外のものに係る所得は、その支払を受ける遺族の一時所得に該当するものとする。(昭63直所3-3、直法6-2、直資3-2、平元直所3-14、直法6-9、直資3-8改正)

一時所得は、収入金額からMAX50万円の特別控除額を差し引けるため、他の一時所得と合わせて50万円以下であれば、確定申告が必要な場合を除き申告は不要となります。

(一時所得)
所得税法第三十四条
一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
2 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。
3 前項に規定する一時所得の特別控除額は、五十万円(同項に規定する残額が五十万円に満たない場合には、当該残額)とする。

死亡後に振込まれた公的年金の取扱い

被相続人が亡くなってから年金の手続きをする前に、ちょうど支給日が到来して、亡くなった方の口座に振り込まれる場合があります。

この場合でも、振り込まれた年金は未支給年金として取り扱います。

したがって、相続財産には含まれませんが、相続した遺族の「一時所得」に該当することとなります。

公的年金の判断基準は、年金の支給日が死亡前(準確定申告・相続財産)か、死亡後(遺族の一時所得)か、ということになります。

支給日が到来している未収年金の取扱い

何らかの理由により、生前に支給日が到来しているにもかかわらず、公的年金が振り込まれない場合があります。

その場合、たとえ死亡した後にこの公的年金が振り込まれたとしても、被相続人の収入(雑所得)として準確定申告に含む必要があります。

繰り返しになりますが、あくまでも公的年金の判断基準は、年金の支給日が死亡前(準確定申告・相続財産)か、死亡後(遺族の一時所得)か、ということになります。

あとがき

未支給年金は、お客様からも時々質問があるところです。

結論としては、
・亡くなる前までに入金があったもの(支給日到来)は準確定申告&相続財産
・亡くなった後に入金があるもの(支給日未到来)は遺族の一時所得
です。

また、今回は公的年金の解説でしたが、個人年金などの私的年金の場合は取り扱いが異なりますので、注意が必要です。

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