暦年贈与と相続時精算課税制度~制度の違いと活用方法~

こんにちは!
サラリーマン税理士のりゅうです。

2015年(平成27年)から適用された相続税法の改正により、相続税申告の件数は増えました。
それと同時に、生前贈与のご相談も増えてきてます。

今回は、暦年贈与と相続時精算課税制度について簡単に説明していきます。

ちなみに相続時政策課税制度については、贈与時の時価を相続財産の評価額として相続税計算へ持ち戻すので、相続時に財産の評価額が上がっているケースだと贈与時の低い評価額で相続税が計算されるというメリットを挙げる場合が多いです。
しかし、こればっかりはその時(相続時)になってみないと分かりませんので、もう少し単純な考えに基づき説明していきたいと思います。

贈与税とは

贈与税とは、贈与により財産を取得した人が納める税金のことです。
財産を取得した人が税金を納めることは、相続税法第一条の四(贈与税の納税義務者)によって定められています。

財産をもらう人(納税義務者)を「受贈者」といい、
財産をあげる人を「贈与者」といいます。

贈与税の対象期間は、暦年(1月1日から12月31日)の1年間で、毎年贈与税の計算を行います。

複数の贈与者から財産を取得した場合、基本的にはその合計額が課税対象となります。
この考え方は贈与税の原則であり、受贈者単位課税といいます。
例えば、1年間で父から200万円と母から100万円の贈与を受けた場合は、合計300万円が贈与税の課税対象となります。

暦年贈与と相続時精算課税制度の概要

暦年贈与

●概要

暦年贈与とは、「暦年」(1月1日から12月31日)ごとに贈与を行い、その贈与の合計額が110万円以下であれば贈与税がかからないという制度です。
もっとわかり易く言うと、毎年110万円以下の贈与であれば、贈与税がかかりません。

なぜ110万円以下の贈与だと贈与税がかからないかというと、贈与の合計額から110万円を控除した残額(課税価格)に税率を掛けるという法律の建て付け(相続税法第二十一条の七)になっているからです。
この110万円を「基礎控除」といいます。

110万円以下(基礎控除以下)であれば、贈与税の申告は必要ありません。

●税率

110万円を控除した残額(課税価格)によって税率が異なり、さらに一定の要件を満たす場合には、税率の優遇(特例税率)を受けることができます。

〈要件〉
・財産をあげる人が、直系尊属(父・母・祖父・祖母)であること
・財産をもらう人が、その年の1月1日において20歳以上であること

〈例〉
贈与者が父・母・祖父・祖母+受贈者が20歳未満=一般税率
贈与者が父・母・祖父・祖母受贈者が20歳以上特例税率
贈与者が配偶者・兄弟姉妹・子+受贈者が20歳以上=一般税率

●贈与税額の計算方法

暦年贈与は、財産をもらった人が、その年1月1日から12月31日までに贈与により取得した財産の合計額に基づき贈与税額を計算します(受贈者単位課税)。

●生前贈与加算

暦年贈与の場合、基本的には相続時に財産を足し戻す必要はなく、毎年110万円の基礎控除内で贈与を行えば贈与税がかかることなく財産を移すことができます。

ただし、相続や遺贈により財産を取得した人については、相続開始前3年以内に被相続人から受けた贈与財産を、贈与時の価額をもって相続財産に足し戻す必要があります。

(贈与税の基礎控除)
相続税法第二十一条の五 贈与税については、課税価格から六十万円を控除する。

(贈与税の基礎控除の特例)
租税特別措置法第七十条の二の四 平成十三年一月一日以後に贈与により財産を取得した者に係る贈与税については、相続税法第二十一条の五の規定にかかわらず、課税価格から百十万円を控除する。この場合において、同法第二十一条の十一の規定の適用については、同条中「第二十一条の七まで」とあるのは、「第二十一条の七まで及び租税特別措置法第七十条の二の四(贈与税の基礎控除の特例)」とする。
2 前項の規定により控除された額は、相続税法その他贈与税に関する法令の規定の適用については、相続税法第二十一条の五の規定により控除されたものとみなす。

(贈与税の税率)
相続税法第二十一条の七 贈与税の額は、前二条の規定による控除後の課税価格を次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額とする。
二百万円以下の金額:百分の十
二百万円を超え三百万円以下の金額:百分の十五
三百万円を超え四百万円以下の金額:百分の二十
四百万円を超え六百万円以下の金額:百分の三十
六百万円を超え千万円以下の金額:百分の四十
千万円を超え千五百万円以下の金額:百分の四十五
千五百万円を超え三千万円以下の金額:百分の五十
三千万円を超える金額:百分の五十五

(直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例)
租税特別措置法第七十条の二の五 平成二十七年一月一日以後に直系尊属からの贈与により財産を取得した者(その年一月一日において二十歳以上の者に限る。)のその年中の当該財産に係る贈与税の額は、相続税法第二十一条の七の規定にかかわらず、前条の規定による控除後の課税価格を次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額とする。
二百万円以下の金額:百分の十
二百万円を超え四百万円以下の金額:百分の十五
四百万円を超え六百万円以下の金額:百分の二十
六百万円を超え千万円以下の金額:百分の三十
千万円を超え千五百万円以下の金額:百分の四十
千五百万円を超え三千万円以下の金額:百分の四十五
三千万円を超え四千五百万円以下の金額:百分の五十
四千五百万円を超える金額:百分の五十五

(相続開始前三年以内に贈与があつた場合の相続税額)
相続税法第十九条 相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前三年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産(第二十一条の二第一項から第三項まで、第二十一条の三及び第二十一条の四の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの(特定贈与財産を除く。)に限る。以下この条及び第五十一条第二項において同じ。)の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし、第十五条から前条までの規定を適用して算出した金額(当該贈与により取得した財産の取得につき課せられた贈与税があるときは、当該金額から当該財産に係る贈与税の税額(第二十一条の八の規定による控除前の税額とし、延滞税、利子税、過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税に相当する税額を除く。)として政令の定めるところにより計算した金額を控除した金額)をもつて、その納付すべき相続税額とする。

ちなみに、相続税の本法(二十一条の五)では基礎控除が60万円となっており、時限立法の租税特別措置法(七十条の二の四)において110万円と定められています。

相続時精算課税制度

●概要

相続時精算課税制度とは、一定の要件を満たす場合には、2,500万円までの贈与であれば贈与税がかからないという制度です。

〈要件〉
・財産をあげる人が、その年の1月1日において60歳以上であること(父母・祖父母)
・財産をもらう人が、その年の1月1日において20歳以上であること
・財産をもらう人が、直系卑属である推定相続人(仮に贈与者が死亡した場合に贈与者の相続人となるべき子・代襲相続の孫)又は孫であること
・贈与税の申告期限(翌年3/15)までに相続時精算課税選択届出書を提出すること

一度に2,500万円の枠を使い切る必要はなく、2,500万円に達するまでは何年後であろうとも(贈与した人が亡くなるまでは)贈与税はかかりません。
ただし、相続時精算課税制度を選択した場合には、少しでも贈与を行うと贈与税申告をしなければなりません(2,500万円の枠内で贈与税がかからなくても)。

●税率

2,500万円の枠を使い切った場合には、その超える部分の贈与については、贈与がある度に一律20%の贈与税がかかります。

●贈与税額の計算方法

相続時精算課税については、例外的に贈与者単位に基づき贈与税額を計算します。
つまり要件さえ満たせば、贈与者ごとに、別々に2,500万円の特別控除を使用することができます。

〈例〉
父から3,000万円の贈与→3,000万円△2,500万円=500万円×20%
母から1,500万円の贈与→1,500万円△2,500万円=0
※贈与者ごとに2,500万円特別控除を使える。

●相続時精算課税適用財産

相続時精算課税制度の適用を受けている財産については、その贈与者が死亡した場合には贈与時の価額を相続財産へ足し戻します。

暦年贈与は相続開始前3年以内の贈与財産を戻しますが、相続時精算課税制度はその制度の適用を受けた財産すべてを戻します。

贈与時の価額を加算するため、雄族開始時の価額を使用しないよう注意する必要があります。

また、2,500万円の特別控除を差し引く前の価額で足し戻すことも注意点の一つです。

(相続時精算課税の選択)
相続税法第二十一条の九 贈与により財産を取得した者がその贈与をした者の推定相続人(その贈与をした者の直系卑属である者のうちその年一月一日において二十歳以上であるものに限る。)であり、かつ、その贈与をした者が同日において六十歳以上の者である場合には、その贈与により財産を取得した者は、その贈与に係る財産について、この節の規定の適用を受けることができる。
2 前項の規定の適用を受けようとする者は、政令で定めるところにより、第二十八条第一項の期間内に前項に規定する贈与をした者からのその年中における贈与により取得した財産について同項の規定の適用を受けようとする旨その他財務省令で定める事項を記載した届出書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
3 前項の届出書に係る贈与をした者からの贈与により取得する財産については、当該届出書に係る年分以後、前節及びこの節の規定により、贈与税額を計算する。
4 その年一月一日において二十歳以上の者が同日において六十歳以上の者からの贈与により財産を取得した場合にその年の中途においてその者の養子となつたことその他の事由によりその者の推定相続人となつたとき(配偶者となつたときを除く。)には、推定相続人となつた時前にその者からの贈与により取得した財産については、第一項の規定の適用はないものとする。
5 第二項の届出書を提出した者(以下「相続時精算課税適用者」という。)が、その届出書に係る第一項の贈与をした者(以下「特定贈与者」という。)の推定相続人でなくなつた場合においても、当該特定贈与者からの贈与により取得した財産については、第三項の規定の適用があるものとする。
6 相続時精算課税適用者は、第二項の届出書を撤回することができない。

(相続時精算課税に係る贈与税の課税価格)
相続税法第二十一条の十 相続時精算課税適用者が特定贈与者からの贈与により取得した財産については、特定贈与者ごとにその年中において贈与により取得した財産の価額を合計し、それぞれの合計額をもつて、贈与税の課税価格とする。

(適用除外)
相続税法第二十一条の十一 相続時精算課税適用者が特定贈与者からの贈与により取得した財産については、第二十一条の五から第二十一条の七までの規定は、適用しない。

(相続時精算課税に係る贈与税の特別控除)
相続税法第二十一条の十二 相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格からそれぞれ次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を控除する。
一 二千五百万円(既にこの条の規定の適用を受けて控除した金額がある場合には、その金額の合計額を控除した残額)
二 特定贈与者ごとの贈与税の課税価格
2 前項の規定は、期限内申告書に同項の規定により控除を受ける金額、既に同項の規定の適用を受けて控除した金額がある場合の控除した金額その他財務省令で定める事項の記載がある場合に限り、適用する。
3 税務署長は、第一項の財産について前項の記載がない期限内申告書の提出があつた場合において、その記載がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その記載をした書類の提出があつた場合に限り、第一項の規定を適用することができる。

(相続時精算課税に係る贈与税の税率)
相続税法第二十一条の十三 相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税の額は、特定贈与者ごとに、第二十一条の十の規定により計算された贈与税の課税価格(前条第一項の規定の適用がある場合には、同項の規定による控除後の金額)にそれぞれ百分の二十の税率を乗じて計算した金額とする。

(贈与税の申告書)
相続税法第二十八条 贈与により財産を取得した者は、その年分の贈与税の課税価格に係る第二十一条の五、第二十一条の七及び第二十一条の八の規定による贈与税額があるとき、又は当該財産が第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるものであるときは、その年の翌年二月一日から三月十五日まで(同年一月一日から三月十五日までに国税通則法第百十七条第二項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をしないでこの法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなるときは、当該住所及び居所を有しないこととなる日まで)に、課税価格、贈与税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

(相続時精算課税に係る相続税額)
祖相続税法第二十一条の十五 特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得した相続時精算課税適用者については、当該特定贈与者からの贈与により取得した財産で第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるもの(第二十一条の二第一項から第三項まで、第二十一条の三、第二十一条の四及び第二十一条の十の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるものに限る。)の価額を相続税の課税価格に加算した価額をもつて、相続税の課税価格とする。

暦年贈与と相続時精算課税制度の併用

暦年贈与と相続時精算課税制度は、併用して使うことができます。

例えば、父と母からの贈与は相続時精算課税制度を使用する手続きを行い、それ以外からの贈与は原則的な暦年贈与により贈与税額を計算することができます。

〈例〉
父からの贈与→相続時精算課税制度の選択
母からの贈与→相続時精算課税制度の選択
祖父母・兄弟姉妹からの贈与→暦年贈与

暦年贈与と相続時精算課税制度の選択

暦年贈与と相続時精算課税制度、どちらを使用すべきかという点ですが、以下私見を述べます。

相続時精算課税制度については、贈与時の時価を相続財産の評価額として相続税計算へ足し戻すので、後の相続時に財産の評価額が上がっているケースだと贈与時の低い評価額で相続税が計算されるというメリットがありますが、将来のことはわかりませんので、基本的な性質の違いによりどちらを選択したほうが良いかを考えていきたいと思います。

●早い段階から110万円の基礎控除内で財産を贈与できる場合→とにかく毎年暦年贈与

・生前贈与加算を除き、早い段階で始めると多額の財産を無税で移せる!
・3年以内に死亡する可能性が大きい場合は、法定相続人以外に贈与すれば生前贈与加算を免れる可能性も!(生前贈与加算は、相続や遺贈により財産を取得した人が対象のため。)

●金額の大きい不動産の財産で、贈与時にとにかく税金を少なくしたい場合→相続時精算課税制度

・相続時に財産へ足し戻し!
・相続時に基礎控除内で相続税がかからない場合は、無税で財産を前もって移せる!

結局は、
・早い段階からちょこちょこ始めるなら暦年贈与
・大きい財産をドーンと動かすなら相続時精算課税制度
この2択になると考えます。

 

 

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