短期前払費用の仕組み

こんにちは!
サラリーマン税理士のりゅうです。

今回は、「短期前払費用」のお話です。

節税対策でもよく出てくる項目ですが、一歩間違えると経費にできなくなりますので、注意が必要です。

国税庁の事例も交えて、簡単に解説していきます。

ちなみに、個人と法人で共通の内容ですので、
年(個人)・事業年度(法人)→「事業年度」
経費(個人)・損金(法人)→「損金」
に統一して解説していきます。

【この記事でわかること】
♦短期前払費用とは
♦短期前払費用の要件
♦短期前払費用の事例
♦「支払った日から1年以内に提供を受ける役務」とは

短期前払費用とは

前払費用とは

前払費用とは、地代家賃や保険料、リース料など、継続的に提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいいます。

例えば、3月決算法人が、1月から12月までのリース料(年12,000円)について、1月にその1年分の支払いをした場合には、
①1月~3月の3ヶ月分(3,000円)は当期の損金
②4月から12月の9ヶ月分(9,000円)は翌期の損金
に対応するため、翌期の9か月分は前払費用として資産計上するのが原則です。

【支払時】
(リース料)12,000/(現金預金)12,000
【決算時】
(前払費用) 9,000/(リース料) 9,000
※9ヶ月分を前払費用として資産計上
【翌期】
(リース料) 9,000/(前払費用) 9,000
※翌期対応の9ヶ月分を翌期に費用計上

短期前払費用とは

短期前払費用とは、前払費用の中でも、支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合に、継続してその支払った日の属する事業年度の損金に計上しているときに、支払った時点で経費にすることができるものをいいます。
上記の例であれば、支払った12,000円の全額をその支払った事業年度の損金にすることができます。

【国税庁 タックスアンサー】

No,5380 短期前払費用として損金算入ができる場合

[令和2年4月1日現在法令等]

1 前払費用
前払費用とは、法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいいます。
前払費用は、原則として、支出した時に資産に計上し、役務の提供を受けた時に損金の額に算入すべきものです。

2 短期前払費用
法人が、前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、1にかかわらず、その支払時点で損金の額に算入することが認められます。
ただし、借入金を預金、有価証券などに運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、たとえ1年以内の短期前払費用であっても、支払時点で損金の額に算入することは認められませんので注意してください。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5380.htm

短期前払費用の要件

短期前払費用として計上するためには、
①前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものであること
支払った金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入していること
が必要になります。
法人税基本通達2-2-14
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。(昭55年直法2-8「七」により追加、昭61年直法2-12「二」により改正)
(注)例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
所得税基本通達37-30の2
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。(昭55直所3-19、直法6-8追加)

短期前払費用の事例

国税庁の質疑応答事例では、以下のような取扱いが示されています。
前提は、3月決算法人となっています。

【国税庁 質疑応答事例】

短期前払費用の取扱いについて

【照会要旨】

当事者間の契約により、年1回3月決算の法人が次のような支払を継続的に行うこととしているものについては、法人税基本通達2-2-14((短期の前払費用))を適用し、その支払額の全額をその支払った日の属する事業年度において損金の額に算入して差し支えありませんか。
なお、次の事例1から5までの賃貸借取引は、法人税法第64条の2第3項に規定するリース取引には該当しません。

事例1:期間40年の土地賃借に係る賃料について、毎月月末に翌月分の地代月額1,000,000円を支払う。

事例2:期間20年の土地賃借に係る賃料について、毎年、地代年額(4月から翌年3月)241,620円を3月末に前払により支払う。

事例3:期間2年(延長可能)のオフィスビルフロアの賃借に係る賃料について、毎月月末に翌月分の家賃月額611,417円を支払う。

事例4:期間4年のシステム装置のリース料について、12ケ月分(4月から翌年3月)379,425円を3月下旬に支払う。

事例5:期間10年の建物賃借に係る賃料について、毎年、家賃年額(4月から翌年3月)1,000,000円を2月に前払により支払う。

【回答要旨】

・事例1から事例4までについては、照会意見のとおりで差し支えありません。

・事例5については、法人税基本通達2-2-14の適用が認められません。

(理由)

(1)本通達の趣旨について
本通達は、1年以内の短期前払費用について、収益との厳密な期間対応による繰延経理をすることなく、その支払時点で損金算入を認めるというものであり、企業会計上の重要性の原則に基づく経理処理を税務上も認めるというものです。

(2)照会に対する考え方について
事例1から事例4までについては、基本的には、これを認めることが相当と考えられますが、一方では、利益が出たから今期だけまとめて1年分支払うというような利益操作のための支出や収益との対応期間のズレを放置すると課税上の弊害が生ずると認められるものについては、これを排除していく必要があります。
このため、継続的な支払を前提条件とすることや収入との直接的な見合関係にある費用については本通達の適用対象外とするということは、従来と同様、当然に本通達の適用に当たって必要とされるのですが、これに加え、役務の受入れの開始前にその対価の支払が行われ、その支払時から1年を超える期間を対価支払の対象期間とするようなものは、何らかの歯止めを置いた上で本通達の適用を認めることが相当と考えられます。

【関係法令通達】
法人税基本通達2-2-14

注記
令和2年8月1日現在施行の法令・通達等に基づいて作成しています。
この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/02/03.htm

[事例1]と[事例3]については、月末に翌月分(翌期分)を支払っているものであり、翌月分であっても支払った月(期)の損金に計上することができます。

[事例2]と[事例4]については、3月下旬に、4月から3月の1年分(翌期分)を支払っているものであり、短期前払費用の要件である「支払った日から1年以内に提供を受ける役務」を満たすため、支払った3月(当期)の損金に計上することができます。

[事例5]については、2月に、4月から翌年3月の1年分(翌期分)を支払っているものであり、短期前払費用の要件である「支払った日から1年以内に提供を受ける役務」を満たしていません。
要件を満たすためには、2月に3月から翌年2月の1年分の支払いを行うか、3月に4月から翌年3月の1年分の支払いを行う必要があります。
つまり[事例5]のケースだと、支払った日から1年1ヶ月となってしまうため、1年以内という要件からはみ出てしまうことになります。

「支払った日から1年以内に提供を受ける役務」とは

支払った日から1年以内に提供を受ける役務

ここで問題となるのが、「支払った日から1年以内に提供を受ける役務」とは、どの期間を指すのか、という点です。

この点については、私見を述べたいと思います。

例えば、3月決算の法人が3月25日に1年分の支払いを行った場合、翌年の3/25~3/31の7日分の役務提供が完了していないことになります。

ただし、国税庁の質疑応答事例([事例2]・[事例4])からも読み取れるように、役務提供が完了しているものを対象としているのではなく、役務提供が開始されていれば対象となると考えることができます。

したがって、翌年3月分については3/1から役務提供が開始されており、「1年以内に提供を受ける」に該当すると考えられます。

そのことも考慮されて、「受けた」ではなく「受ける」という文言になっているのではないかと思います。

支払日に注意?

3/1に4月から翌年3月の1年分(翌期分)を支払っている場合には注意が必要だと考えます。

つまり、3/1から「1年以内」とは、翌年2月末を指すからです。

そうなると、翌年3月分の1ヶ月分がはみ出てしまうため、短期前払費用の要件を満たさないことになってしまいます。

税法ではよく「末日の翌日から~」という文言を見かけますが、短期前払費用の通達では「支払った日から1年以内」となっており、「支払った日の翌日から1年以内」とは規定されていません。

したがって、3/25に1年分の支払いを行った場合には、翌年3/24が「支払った日から1年」となります。

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