役員報酬(定期同額給与)を株主総会の翌月分から変更する場合の取扱い

こんにちは!
サラリーマン税理士のりゅうです。

今回は、役員報酬(定期同額給与)についてのお話です。

役員報酬は一般的に3か月以内に変更することが原則ですが、場合によっては4か月目や5か月目に変更するケースがあります。

4か月目や5か月目に変更する場合でも、定期同額給与の要件を満たすのかどうか?

簡単に解説します。

【この記事で分かること】
♦定期同額給与の概要
♦翌月支給分から改定する場合
♦翌々月支給分から改定する場合

定期同額給与の概要

定期同額給与とは、ざっくり言うと、毎月同額の役員報酬を支給するものをいいます。

細かくは法人税法施行令69条に規定されており、定期給与で、次に掲げる改定がされた場合において、当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるものをいいます。

①当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日(以下「3か月経過日等」といいます。)まで(継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額の改定が3か月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にあっては、当該改定の時期)にされた定期給与の額の改定

②当該事業年度において当該内国法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(臨時改定事由)によりされたこれらの役員に係る定期給与の額の改定(①に掲げる改定を除きます。)

③当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(業績悪化改定事由)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与の額を減額した改定に限り、①及び②に掲げる改定を除きます。)

基本的には①のケースの改定が主であり、特殊な事情があった場合には②又は③によって改定されます。

(役員給与の損金不算入)
法人税法第三十四条
内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び第三項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(次号イにおいて「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(同号において「定期同額給与」という。)

(定期同額給与の範囲等)
法人税法施行令第六十九条
法第三十四条第一項第一号(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める給与は、次に掲げる給与とする。
一 法第三十四条第一項第一号に規定する定期給与(以下第六項までにおいて「定期給与」という。)で、次に掲げる改定(以下この号において「給与改定」という。)がされた場合における当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの
イ 当該事業年度開始の日の属する会計期間(法第十三条第一項(事業年度の意義)に規定する会計期間をいう。以下この条において同じ。)開始の日から三月(法第七十五条の二第一項各号(確定申告書の提出期限の延長の特例)の指定を受けている内国法人にあつては、その指定に係る月数に二を加えた月数)を経過する日(イにおいて「三月経過日等」という。)まで(定期給与の額の改定(継続して毎年所定の時期にされるものに限る。)が三月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にあつては、当該改定の時期)にされた定期給与の額の改定
ロ 当該事業年度において当該内国法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(第四項第二号及び第五項第一号において「臨時改定事由」という。)によりされたこれらの役員に係る定期給与の額の改定(イに掲げる改定を除く。)
ハ 当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(第五項第二号において「業績悪化改定事由」という。)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与の額を減額した改定に限り、イ及びロに掲げる改定を除く。)
二 継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの

職務執行期間と支給時期

定期給与は、3か月経過日等までに改定は必要ですが、改定後の定期給与を3か月以内に支給しなければならないという規定はありません。

したがって、場合によっては4か月目や5か月目に変更するケースが出てくる可能性があります。

役員の職務執行期間は、当年の定時株主総会の開催日から翌年の定時株主総会の開催日までの期間であり、定時株主総会における定期給与の改定は、その開催日から開始する新たな職務執行期間に対する定期給与を定めるものと考えられます。

その考え方からすると、定時株主総会の日から1か月経過ごとに役員の報酬請求権が生じることとなり、例えば定時株主総会が6月25日であったとすると、請求権は7月24日に発生することとなります。

その場合、月末支給であれば7月末に、翌月10日支給であれば8月10日に支払われることになります。

ただし、翌月10日支給のケースで、定時株主総会において7月10日支給から改定する旨の決議を行っている場合には、7月10日支給からの改定について定期同額給与に該当することとなります。

役員給与に関するQ&A
平成20年12月(平成24年4月改訂)国税庁
(定期給与を株主総会の翌月分から増額する場合の取扱い)

[Q2]
当社(年1回3月決算)は、定時株主総会をX1年6月 25 日に開催し、役員に対する定期給与の額につき従来の 50 万円から 60 万円に増額改定することを決議しました。当社の役員に対する定期給与の支給日は毎月末日となっていますが、その増額改定は6月30日支給分からではなく、定時株主総会の日から1ヶ月経過後最初に到来する給与の支給日である7月31日支給分から適用することとしています。
この場合、定期同額給与の要件とされている「改定前後の各支給時期における支給額が同額であるもの」という要件は満たさないこととなりますか。

[A]
4月から6月までの支給額又は7月から翌年3月までの支給額が同額である場合には、「改定前後の各支給時期における支給額が同額であるもの」という要件を満たし、それぞれが定期同額給与に該当します。

[解説]
⑴ 定期同額給与とは、次に掲げる給与をいいます。
① その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」といいます。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの(法法 34①一)
② 定期給与で、次に掲げる改定がされた場合において、当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの(法令 69①一)
ⅰ 当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日(以下「3月経過日等」といいます。)まで(継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額の改定が3月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にあっては、当該改定の時期)にされた定期給与の額の改定(法令 69①一イ)
ⅱ 当該事業年度において当該内国法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(臨時改定事由)によりされたこれらの役員に係る定期給与の額の改定(ⅰに掲げる改定を除きます。)(法令69①一ロ)
ⅲ 当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(業績悪化改定事由)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与の額を減額した改定に限り、ⅰ及びⅱに掲げる改定を除きます。)(法令 69①一ハ)
③ 継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの(法令 69①二)
例えば、年1回3月決算の法人が毎月20日に役員給与を支給することとしている場合において、6月25日に開催した定時株主総会において定期給与の額の改定を決議したときには、次の①又は②に掲げる各支給時期における支給額が同額である場合には、それぞれが定期同額給与に該当することとなります。
① 当該事業年度開始の日(4/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(7/19)までの間の各支給時期
⇒4月20日、5月20日、6月20日
② 給与改定前の最後の支給時期の翌日(6/21)から当該事業年度終了の日(3/31)までの間の各支給時期
⇒7月20日、8月20日、……、3月20日
⑵ ご質問は、上記の例で役員給与の支給日を毎月末日としている場合でありますが、6月25日に開催した定時株主総会において定期給与の増額改定を決議した後、同月末日(6/30)に給与の支給日が到来することから、給与改定後の最初の支給時期が6月30日となり、「当該事業年度開始の日から給与改定後の最初の支給時期の前日まで」を4月1日から6月29日までと、「給与改定前の最後の支給時期の翌日から当該事業年度終了の日まで」を6月1日から翌年3月31日までとみれば、7月31日支給分から給与の額を増額した場合は、定期同額給与に該当しないのではないかとのお尋ねであります。
⑶ この点、役員の職務執行期間は、一般に定時株主総会の開催日から翌年の定時株主総会の開催日までの期間であると解され、定時株主総会における定期給与の額の改定は、その定時株主総会の開催日から開始する新たな職務執行期間(以下「翌職務執行期間」といいます。)に係る給与の額を定めるものであると考えられます。
ご質問の場合、定時株主総会において翌職務執行期間に係る給与の額を定めたものであると思われますが、6月25日から開始する翌職務執行期間に係る最初の給与の支給時期を、定時株主総会直後に到来する6月30日ではなく、その翌月の7月31日であるとする定めも一般的と考えられます。
したがって、次の①又は②に掲げる各支給時期における支給額が同額である場合には、それぞれが定期同額給与に該当することとなります。
① 当該事業年度開始の日(4/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(7/30)までの間の各支給時期
⇒4 月 30 日、5月 31 日、6月 30 日
② 給与改定前の最後の支給時期の翌日(7/1)から当該事業年度終了の日(3/31)までの間の各支給時期
⇒7 月 31 日、8月 31 日、……、3月 31 日
なお、定時株主総会の決議に基づき6月 30 日支給分から増額することとしている場合において、4月及び5月の支給額並びに6月から翌年3月までの支給額が同額であるときは、それぞれが定期同額給与に該当することとなります。
(注)本事例は、役員給与の額を株主総会で決議することとしていますが、例えば、株主総会で役員給与の支給限度額を定め、各人別の支給額は取締役会で決議するなど、会社法等の法令の規定に従って役員給与の額を決議するものは、この事例における株主総会での決議と同様に取り扱って差し支えありませんので、ご留意ください。

[関係法令通達]
法人税法第34条第1項第1号
法人税法施行令第69条第1項第1号

国税庁ホームページ『役員給与に関するQ&A』
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/qa.pdf

<参考文献>

●税務通信No.3594(P57~58)
税務相談 法人税(回答:税理士奥田芳彦氏)
「定期給与を株主総会の翌月分から改定し、翌々月に支給する場合の取扱い」

●税理士のためのケーススタディ役員給与課税の心得帳(P12)
小林俊道氏[著](ぎょうせい)
「[CASE3]翌月10日支給の役員給与と増額改定」

『「役員の職務執行期間」や、「報酬請求権の発生時期」、「役員給与の支給開始月」といったことの実務も踏まえた考察からすると、結局のところ、当月分を翌月10日支払いといった法人においては、期首から3か月以内に増額改定の決議がされれば、実際の増額支給がその翌月以降(期首から4か月目ないしは支給日との関係で5か月目)になっても、増額以後の定期給与は「定期同額給与」に該当し損金算入ができるケースがあるものと思われます。』

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具体的な事例

3月決算法人で、6月25日の定時株主総会にて役員報酬を改定する場合、次のパターンの改定時期が想定されます。

・毎月20日支給→7/20支給より改定

・毎月末支給→6/30支給より改定

・毎月末支給→7/31支給より改定

・翌月10日支給→7/10支給より改定

・翌月10日支給→8/10支給より改定

毎月20日支給→7/20支給より改定

6月25日:定時株主総会
7月20日:支給(改定)

毎月末支給→6/30支給より改定

6月25日:定時株主総会
6月30日:支給(改定)

毎月末支給→7/31支給より改定

6月25日:定時株主総会
6月30日:支給
7月31日:支給(改定)

翌月10日支給→7/10支給より改定

6月25日:定時株主総会
7月10日:支給(改定)

翌月10日支給→8/10支給(7月分)より改定

6月25日:定時株主総会
7月10日:支給
8月10日:支給(改定)

議事録等での明示

役員給与の改定については、役員給与規定や株主総会議事録などで、職務執行期間、報酬請求権発生時期、改定後の支給開始時期などをしっかり明示しておくと、毎期同時期に役員報酬の改定が行われていることをアピールできるため、税務調査対策として有効であると考えられます。

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