退職金の一時金受取が税制上有利な理由

こんにちは!
サラリーマン税理士のりゅうです。

最近はNISAやiDeCoなど、資産運用という言葉を耳にすることが多くなりました。

2,000万円問題も話題となり、将来のお金の心配がより一層強くなったのだと感じます。

さて、そんな中、退職金やiDeCoの受け取り方が注目されており、
・一時金受取→退職所得
・年金受取→雑所得
が主な方法です。

この2つの方法だと、退職所得になる一時金受取が有利であると言われていますが、
なぜ有利なのでしょうか?

今回は、退職所得の計算構造について、簡単に解説していきます。

【この記事でわかること】
・退職所得とは
・退職所得の計算構造
・所得税の勤続年数の計算
・退職手当等の源泉徴収

退職所得とは

退職所得の取扱い

退職所得とは、「退職手当等に係る所得」をいいます。

ザックリいうと、会社からもらう退職金は、所得税法上の退職所得として取り扱われます。

「退職手当等」とは、①退職したことに起因して②一時に支払われるものをいいます。

したがって、退職金という名称で判断せず、退職に際し支給された一時金は、退職所得の取扱いとなります。

(退職所得)
所得税法第三十条
退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下この条において「退職手当等」という。)に係る所得をいう。

(退職手当等の範囲)
所得税基本通達30-1
退職手当等とは、本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与をいう。したがって、退職に際し又は退職後に使用者等から支払われる給与で、その支払金額の計算基準等からみて、他の引き続き勤務している者に支払われる賞与等と同性質であるものは、退職手当等に該当しないことに留意する。

退職手当等とみなす一時金

退職に伴う一時金の他に、
・小規模企業共済
・確定拠出年金(iDeCo)
などで一時金で受け取るものは、所得税法上の退職所得として取り扱われます。
(所得税法31条、所得税法施行令72条)

退職所得の計算構造

計算式

退職所得の金額は、その年の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を差し引いた残額に、2分の1を掛けた金額となります。

(退職手当等の収入金額△退職所得控除額)×1/2=退職所得

退職所得控除額とは

退職所得控除額とは、勤続年数に応じて収入金額から控除できる額をいいます。

給与所得控除額と同様に、概算経費として収入金額から控除することができます。

なぜ概算経費を控除できる仕組みなのかというと、退職所得は一生に何回もあることではないこと、また、老後の生活保障を考慮しているからです。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数(最低80万円)
20年超 800万円(40万円×20年)+70万円×(勤続年数△20年)

この退職所得控除額があることにより、退職所得となる一時金で受け取った方が税制上有利であることが多いです。

設例

・退職手当等の収入金額:20,000,000円
・勤続年数:30年

(1)収入金額
20,000,000円
(2)退職所得控除額
8,000,000円+700,000円×(35年△20年)=18,500,000円
(3)退職所得
{(1)△(2)}×1/2=750,000円

その後、75万円を基に退職所得の源泉徴収税額を計算するという流れになります。

ちなみに、勤続年数が40年であれば、給与所得控除額は2,200万円と計算され(800万円+70万円×20年)、収入金額よりも大きくなるため、退職所得はゼロとなります。

所得税の勤続年数の計算

勤続年数は、必ずしも○年というキリの良い年数ばかりではありません。

勤続年数に1年未満の期間がある場合には、その部分は切り上げて計算します。

例えば、勤続年数が29年2か月だった場合、2か月部分を切り上げて、30年として計算します。

また、勤続年数については、あくまでも所属している期間で算定するため、長期欠勤期間や休職期間も含めて計算します。

(退職所得控除額に係る勤続年数の計算)
所得税法施行令第六十九条
2 前項各号の規定により計算した期間に一年未満の端数を生じたときは、これを一年として同項の勤続年数を計算する。

(長期欠勤又は休職中の期間)
所得税基本通達30-7
令第69条第1項第1号に規定する勤務した期間には、長期欠勤又は休職(他に勤務するためのものを除く。)の期間も含まれる。(昭63直法6-1、直所3-1改正)

退職手当等の源泉徴収

退職手当等を受け取った場合、上記で解説した方法により退職所得を計算して、源泉徴収税額を計算します。

ただし、この計算方法は、「退職所得の受給に関する申告書」を退職手当等の支払者に提出している場合に限ります。

「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合

今まで解説してきた算式により、源泉徴収税額を計算します。

(退職手当等の収入金額△退職所得控除額)×1/2×超過累進税率

「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、源泉徴収により課税関係が完了していますので、確定申告をする必要はありません。

「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合

「退職所得の受給に関する申告書」を退職手当等の支払者に提出していない場合は、退職手当等の収入金額から概算的に一律20.42%の所得税等が源泉徴収されてしまうので、提出している場合に比べて不利になるケースがほとんどです。

退職手当等の収入金額×20.42%

退職所得控除額の控除や、×1/2の力は、やはり絶大です。

確定申告により【(退職手当等の収入金額△退職所得控除額)×1/2×超過累進税率】で計算することができますので、多く税金を引かれてしまっている場合は、ぜひ確定申告をして税金を取り戻しましょう。

(徴収税額)
所得税法第二百一条
第百九十九条(源泉徴収義務)の規定により徴収すべき所得税の額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める税額とする。
一 退職手当等の支払を受ける居住者が提出した退職所得の受給に関する申告書、その支払うべきことが確定した年において支払うべきことが確定した他の退職手当等で既に支払がされたもの(次号において「支払済みの他の退職手当等」という。)がない旨の記載がある場合 次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額を課税退職所得金額とみなして第八十九条第一項(税率)の規定を適用して計算した場合の税額
3 退職手当等の支払を受ける居住者がその支払を受ける時までに退職所得の受給に関する申告書を提出していないときは、第百九十九条の規定により徴収すべき所得税の額は、その支払う退職手当等の金額に百分の二十の税率を乗じて計算した金額に相当する税額とする。

 

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