インボイス制度に係る売手負担の振込手数料について

こんにちは!
サラリーマン税理士のりゅうです。

今回は、インボイス制度における振込手数料の処理についてのお話です。

売上先から販売代金が入金されるとき、振込手数料分を差し引いて入金されるケースがあります。

その場合、差し引かれた分を支払手数料として課税仕入れに計上しますが、インボイス制度の下ではどのように処理するのか、簡単に解説します。

民法上の取扱い

民法上は、「持参債務の原則」によって、振込手数料は債務者側が負担することを原則としています。

債務者は債権者の住所に代金を持参して支払うため、そこまでに発生した費用は債務者の負担とすることを民法で定めています。

つまり、現在では口座振込が通常ですが、その際に発生する振込手数料は債務者が負担することを原則としています。

しかしながら、現実的には売手負担として手数料差し引き後の金額が振り込まれるケースが多いと思います。

(弁済の場所及び時間)
民法第四百八十四条
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。
2 法令又は慣習により取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り、弁済をし、又は弁済の請求をすることができる。

(弁済の費用)
民法第四百八十五条
弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

手数料が差し引かれる場合の会計処理

手数料が売手負担の場合の会計処理は、下記のとおりです。

①支払手数料として処理する場合の会計処理

<売上時>
売掛金1,100/売上1,100
<入金時>
現預金990/売掛金1,100
手数料110

売掛金と振込金額の差額を振込手数料として処理するため、消費税計算上は課税仕入れとして処理します。

現行は、3万円未満の取引については請求書等の保存がなくても仕入税額控除が認められますが、インボイス制度では適格請求書等の保存がなければ認められません。

②売上値引として処理する場合の会計処理

<売上時>
売掛金1,100/売上1,100
<入金時>
現預金990/売掛金1,100
売上引110

売掛金と振込金額の差額を売上値引として処理します。

インボイス制度では、原則として適格返還請求書を買手に交付する必要があります。

インボイス制度の取扱い

インボイス制度では、3万円未満の取引についても原則として適格請求書等の保存が必要です。

現行の制度で認められている「請求書等の交付を受けなかったことにやむを得ない理由がある場合の特例(帳簿のみの保存)」は廃止され、振込手数料に係る適格請求書等の保存が必要となりますので、注意が必要です。

この売手が負担する振込手数料の対処方法としては、先ほどの会計処理のように、次の2つが考えられます。
・支払手数料として処理する方法(仕入税額控除)
・売上値引として処理する方法(売上に係る対価の返還等)

①支払手数料として処理する方法

売手が振込手数料を負担し、請求額と振込金額との差額を支払手数料として仕入税額控除を行うためには、売手が「買手の適格請求書等」と「立替金精算書」をそろえる必要があります。

「買手の適格請求書等」とは、買手が振込を行った際に金融機関から発行される書類を指します。
買手は、売手が負担すべき振込手数料をいったん立て替えて(振込手数料を支払って)、振込時(代金決済時)にその立て替えた分が精算されたと考えられるため、買手が金融機関から適格請求書等を受領することになります。

「立替金精算書」とは、買い手から発行されるもので、売手が課税仕入れを行うことを証明する書類を指します。
立替を行った売手から、金融機関名・登録番号・振込手数料の金額等が記載された書類の交付を受けることで、売手が課税仕入れを行うことを明らかにするための書類です。

これらの書類を保存しておけば、売手は仕入税額控除を受けることが認められます。

(立替払に係る適格請求書)
インボイス通達4-2
課税仕入れに係る支払対価の額につき、例えば、複数の事業者が一の事務所を借り受け、複数の事業者が支払うべき賃料を一の事業者が立替払を行った場合のように、当該課税仕入れに係る適格請求書(以下「立替払に係る適格請求書」という。)が当該一の事業者のみに交付され、当該一の事業者以外の各事業者が当該課税仕入れに係る適格請求書の交付を受けることができない場合には、当該一の事業者から立替払に係る適格請求書の写しの交付を受けるとともに、当該各事業者の課税仕入れに係る仕入税額控除に必要な事項が記載された明細書等(以下「明細書等」という。)の交付を受け、これらを併せて保存することにより、当該各事業者の課税仕入れに係る適格請求書の保存があるものとして取り扱う。
なお、一の事業者が、多数の事業者の課税仕入れに係る支払対価の額につき一括して立替払を行ったことにより、当該一の事業者において立替払に係る適格請求書の写しの作成が大量となり、その写しを交付することが困難であることを理由に、当該一の事業者が立替払に係る適格請求書を保存し、かつ、当該一の事業者以外の各事業者の課税仕入れが適格請求書発行事業者から受けたものかどうかを当該各事業者が確認できるための措置を講じた上で、明細書等のみを交付した場合には、当該各事業者が交付を受けた当該明細書等を保存することにより、当該各事業者の課税仕入れに係る適格請求書の保存があるものとする。
(注)1 当該明細書等の書類に記載する法第57条の4第1項第4号及び第5号《適格請求書発行事業者の義務》に掲げる事項については、課税仕入れを行った事業者ごとに合理的に区分する必要がある。
(注)2 当該各事業者の課税仕入れが適格請求書発行事業者から受けたものかどうかを当事者間で確認できるための措置としては、例えば、当該明細書等に当該各事業者の課税仕入れに係る相手方の氏名又は名称及び登録番号を記載する方法のほか、これらの事項について当該各事業者へ別途書面等により通知する方法又は立替払に関する基本契約書等で明らかにする方法がある。

(立替金)
インボイスQ&A問75
当社は、取引先のB社に経費を立て替えてもらう場合があります。
この場合、経費の支払先であるC社から交付される適格請求書には立替払をしたB社の名称が記載されますが、B社からこの適格請求書を受領し、保存しておけば、仕入税額控除のための請求書等の保存要件を満たすこととなりますか。

【答】
貴社が、C社から立替払をしたB社宛に交付された適格請求書をB社からそのまま受領したとしても、これをもって、C社から貴社に交付された適格請求書とすることはできません。
ご質問の場合において、立替払を行ったB社から、立替金精算書等の交付を受ける等により、経費の支払先であるC社から行った課税仕入れが貴社のものであることが明らかにされている場合には、その適格請求書及び立替金精算書等の書類の保存をもって、貴社は、C社からの課税仕入れに係る請求書等の保存要件を満たすこととなります(インボイス通達4-2)。
なお、この場合、立替払を行うB社が適格請求書発行事業者以外の事業者であっても、C社が適格請求書発行事業者であれば、仕入税額控除を行うことができます。

(参考)
A社を含む複数者分の経費を一括してB社が立替払している場合、原則として、B社はC社から受領した適格請求書をコピーし、経費の支払先であるC社から行った課税仕入れがA社及び各社のものであることを明らかにするために、B社が作成した精算書を添える等し、A社を含む立替えを受けた者に交付する必要があります。
しかしながら、立替えを受けた者に交付する適格請求書のコピーが大量となる等の事情により、立替払を行ったB社が、コピーを交付することが困難なときは、B社がC社から交付を受けた適格請求書を保存し、立替金精算書を交付することにより、A社はB社が作成した(立替えを受けた者の負担額が記載されている)立替金精算書の保存をもって、仕入税額控除を行うことができます。
ただし、この場合、立替払を行った取引先のB社は、その立替金が仕入税額控除可能なものか(すなわち、適格請求書発行事業者からの仕入れか、適格請求書発行事業者以外の者からの仕入れか)を明らかにし、また、適用税率ごとに区分するなど、A社が仕入税額控除を受けるに当たっての必要な事項を立替金精算書に記載しなければなりません。
なお、仕入税額控除の要件として保存が必要な帳簿には、課税仕入れの相手方の氏名又は名称の記載が必要となりますし、適格請求書のコピーにより、その仕入れ(経費)が適格請求書発行事業者から受けたものか否かを確認できなくなるため、立替払を行ったB社とA社の間で、課税仕入れの相手方の氏名又は名称及び登録番号を確認できるようにしておく必要があります。
ただし、これらの事項について、別途、書面等で通知する場合のほか、継続的な取引に係る契約書等で、別途明らかにされている等の場合には、精算書において明らかにしていなくても差し支えありません。

インボイス制度に関するQ&A(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/qa_invoice_mokuji.htm

②売上値引として処理する方法

(1)売手の適格返還請求書の交付

売手が振込手数料を負担し、請求額と振込金額との差額を売上値引として処理するためには、売手が買手に対して「適格返還請求書」を交付しなければなりません。

ただし、その都度「適格返還請求書」を発行する必要はなく、課税期間の範囲内であれば一定期間でまとめて記載することが可能であるため、例えば月単位でまとめて交付することも可能です。

例えば月単位の場合、「請求書No,01~05(XX年12月1日~12月31日請求分)の振込手数料相当額」というように、既に交付した請求書等との関連を明確にしておくと、良いと思います。

売手の事務負担は増えますが、取引先ごとに月単位等で交付することで、多少は事務負担を軽減できそうです。

(適格返還請求書の交付義務)
インボイスQ&A問27
返品や値引き等の売上げに係る対価の返還等を行う場合、適格請求書発行事業者は、何か対応が必要ですか。【令和2年9月改訂】

【答】
適格請求書発行事業者には、課税事業者に返品や値引き等の売上げに係る対価の返還等を行う場合、適格返還請求書の交付義務が課されています(新消法57の4③)。
ただし、適格請求書の交付義務が免除される場合と同様、次の場合には、適格返還請求書の交付義務が免除されます(新消令70の9③)。
① 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送
② 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限ります。)
③ 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売(無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限ります。)
④ 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等
⑤ 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限ります。)
なお、適格返還請求書の記載事項については、問49から問51までをご参照ください。

(適格返還請求書の記載事項)
インボイスQ&A問49
適格返還請求書の記載事項について教えてください。

【答】
適格請求書発行事業者には、課税事業者に売上げに係る対価の返還等を行う場合、適格返還請求書を交付する義務が課されています(新消法57の4③)。
適格返還請求書の記載事項は、次のとおりです。
① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 売上げに係る対価の返還等を行う年月日及びその売上げに係る対価の返還等の基となった課税資産の譲渡等を行った年月日(適格請求書を交付した売上げに係るものについては、課税期間の範囲で一定の期間の記載で差し支えありません。)
③ 売上げに係る対価の返還等の基となる課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(売上げに係る対価の返還等の基となる課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④ 売上げに係る対価の返還等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
⑤ 売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額等又は適用税率

インボイス制度に関するQ&A(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/qa_invoice_mokuji.htm

(2)買手の支払通知書の作成

買手から振込手数料が差し引かれた金額が振り込まれ、売手が振込手数料相当額を売上値引として処理する場合、原則として「適格返還請求書」を売手が買手に対して交付しなければなりません。

ただし、振込手数料が売手負担であることを双方で合意している場合等については、買手が作成する支払通知書に適格返還請求書に関する必要事項の記載があれば、その支払通知書で完結するため、売手は改めて適格返還請求書を交付しなくても差し支えありません。

(仕入明細書において対価の返還等について記載した場合)
インボイスQ&A問71
当社は、食品及び日用雑貨の販売を行う事業者です。当社の商品販売売上げに関しては、請求書の交付をすることなく、相手方から交付される次の支払通知書に基づき支払いを受けています。また、返品があった場合には、支払通知書にその内容等が記載されていますが、こうした場合であっても、適格請求書等保存方式においては、改めて、適格返還請求書を交付する必要がありますか。
なお、相手方は、仕入税額控除の適用を受けるために、支払通知書を保存しています。
【平成 30 年 11 月追加】【令和2年9月改訂】

【答】
適格請求書発行事業者には、課税事業者に返品や値引き等の売上げに係る対価の返還等を行う場合、適格返還請求書の交付義務が課されています(新消法57の4③)。
適格返還請求書の記載事項は、次のとおりです。
① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 売上げに係る対価の返還等を行う年月日及びその売上げに係る対価の返還等の基となった課税資産の譲渡等を行った年月日(適格請求書を交付した売上げに係るものについては、課税期間の範囲で一定の期間の記載で差し支えありません。)
③ 売上げに係る対価の返還等の基となる課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(売上げに係る対価の返還等の基となる課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④ 売上げに係る対価の返還等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
⑤ 売上げに係る対価の返還等の金額に係る税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率
また、適格請求書等保存方式の下でも、仕入側が作成した次の記載事項のある仕入明細書等の書類で、相手方の確認を受けたものについては、仕入税額控除の要件として保存すべき請求書等に該当します(新消法 30⑨三、新消令 49④)。
① 仕入明細書の作成者の氏名又は名称
② 課税仕入れの相手方の氏名又は名称及び登録番号
③ 課税仕入れを行った年月日
④ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容(課税仕入れが他の者から受けた軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨)
⑤ 税率ごとに合計した課税仕入れに係る支払対価の額及び適用税率
⑥ 税率ごとに区分した消費税額等
ご質問の場合、相手方が仕入税額控除のために作成・保存している支払通知書に、返品に関する適格返還請求書として必要な事項が記載されていれば、貴社と相手方の間で、貴社の売上げに係る対価の返還等の内容について確認されていますので、貴社は、改めて適格返還請求書を交付しなくても差し支えありません
なお、支払通知書に適格返還請求書として必要な事項を合わせて記載する場合に、事業者ごとに継続して、課税仕入れに係る支払対価の額から売上げに係る対価の返還等の金額を控除した金額及びその金額に基づき計算した消費税額等を税率ごとに支払通知書に記載することで、仕入明細書に記載すべき「税率ごとに合計した課税仕入れに係る支払対価の額」及び「税率ごとに区分した消費税額等」と適格返還請求書に記載すべき「売上げに係る対価の返還等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額」及び「売上げに係る対価の返還等の金額に係る税率ごとに区分した消費税額等」の記載を満たすこともできます。

インボイス制度に関するQ&A(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/qa_invoice_mokuji.htm

まとめ

現行の制度では、3万円未満の取引については請求書等の保存がなくても仕入税額控除が認められますが、インボイス制度が始まると事務負担が煩雑になってきます。

今回の振込手数料についても、改めて売手と買手で話し合い、早めに整理しておくことが必要だと思います。

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