短期前払費用の注意点

こんにちは!
サラリーマン税理士のりゅうです。

今回は、以前に書いた「短期前払費用の仕組み」に関して、役員報酬の取扱いについて簡単に解説します。

過去の「短期前払費用の仕組み」の記事はこちら↓

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【この記事でわかること】
♦役員報酬の「短期前払費用の特例」の適用
♦重要性の原則の判断基準
♦役員報酬の支払いを手形振出で行った場合

役員報酬を支払った場合の特例の適用

短期前払費用とは、前払費用(継続的に提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの)の中でも、支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合に、継続してその支払った日の属する事業年度の損金に計上しているときに、支払った時点で損金にすることができるものをいいます。

法人税基本通達2-2-14
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。(昭55年直法2-8「七」により追加、昭61年直法2-12「二」により改正)
(注)例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。

この短期前払費用の処理は、企業会計上は「重要性の原則」の基づく経理処理であり、税務上も同様の考え方となります。

したがって、役員報酬については、採決事例(平成13年6月7日裁決等)で示されている『時の経過に応じて自動的、合理的に費用化される支払利息、地代、家賃等の前払費用とは性質を異にするもの』『会社の利益を生み出す重要な費用であるもの』という理由から、重要性が乏しいとは言い難いため、短期前払費用の特例については適用対象外となります。

重要性の原則

「重要性の原則」とは、重要性の乏しいものまで厳密に会計処理を行わなくても、株主等の利害関係者の判断を誤らせるようなことは無いと考えられることから、本来の厳密な会計処理によらなくても正しい処理として認められるという趣旨のものであり、「企業会計原則注解注1(重要性の原則)」に記載されています。

企業会計原則注解([注1]重要性の原則の適用について)
企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。

重要性の原則の適用例としては、次のようなものがある。
・消耗品、消耗工具器具備品その他の貯蔵品等のうち、重要性の乏しいものについては、その買入時又は払出時に費用として処理する方法を採用することができる
・前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。

「短期前払費用の特例」は、「重要性の原則」が大前提となっていることは法人税基本通達逐条解説(税務研究会出版局)にも記載されており、前払費用はその「重要性の原則」から逸脱していないことが適用の大前提となっていると考えられます。

逸脱していないかどうかの判断基準は、前払費用の金額だけでなく、下記の内容を含めて総合的に考慮する必要があると考えられます。(「税務通信No.3663」参照)
①前払費用がその法人の財務内容に占める割合
②前払費用に係る業務がその法人の事業活動を展開する上で根幹となる重要な業務であるか否か

約束手形振出の場合の取扱い

「短期前払費用の特例」は、支払手段としての手形の振出も「前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合」に含まれるとする旨が、法人税基本通達逐条解説にも記載されています。

つまり、満期日は関係なく、手形を振り出して1年以内に役務提供を受けるものであれば、「短期前払費用の特例」の対象であると考えられます。

ただし、手形の振出も上記の「支払った場合」として「短期前払費用の特例」の適用対象となるからといって、役員報酬を手形の振出によって支給したとしても、「短期前払費用の特例」は適用対象外となります。

なぜならば、役員報酬については、会社の損益に大きな影響を及ぼす可能性などがあるため、重要性が乏しいとはいえないからです。

したがって、金銭で支払おうが手形を振り出そうが、役員報酬について「短期前払費用の特例」は適用できません。

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