国等に対する仕入税額控除の特例~国・地方公共団体等の消費税の特例~

こんにちは!
サラリーマン税理士のりゅうです。

今回は、消費税の特例計算(以下、国等の特例)のお話です。

税理士試験科目の消費税法では計算・理論ともに勉強する項目ですが、公益法人などを専門としている税理士事務所以外は、実務でお目にかかることは滅多にないと思います。

税理士試験の計算問題で国等の特例が出題されたのは今のことろ過去1度だけですが、国等の特例に関する部分の数字は大体区分け(指示)されており、そんなに迷うことはありません。(のはずです)

実務では、その区分け自体を考える必要があり、そこがなかなか難しいところです。

これから私見を含め、簡単に説明していきます。

国等の特例の概要(ザックリと)

消費税の原則的な計算方法は、

売上に対する消費税額△仕入に対する消費税額=納付税額

という構造になっています。

例えば、売上が1,100円(税込)で、仕入が880円(税込)だとすると、
100円△80円=20円の納税となります。

しかし、公益法人等は多額の補助金等(補助金等の収入は、消費税がががりません)を得ることがあり、
その補助金等を元手に仕入を行った場合、補助金を貰わない法人に比べて、仕入れに対する消費税額が大きくなる傾向にあるため、
その仕入れに対する消費税額に一定の制限を設けようとする制度です。

簡単に言ってしまうと、「タダで貰ったお金で経費使って消費税の納付税額が少なくなる(仕入に対する消費税額が大きくなる)のってズルくない!?」
ということから、補助金等をたくさん貰う法人に制限を設けるための特例計算です。

算式にすると、

売上に対する消費税額△(仕入れに対する消費税額△制限税額)=納付税額

このような算式となります。

対象法人

国等の特例が適用される法人は、簡易課税の適用を受けていない課税事業者を前提に、国若しくは地方公共団体の特別会計、法別表第三に掲げる法人又は人格のない社団等が該当します。

例えば、以下のような法人が該当します。

国、地方公共団体

・国(特別会計)
・地方公共団体(特別会計)

法別表第三に掲げる法人

・学校法人
・社会福祉法人
・一般財団法人
・公益財団法人
・一般社団法人
・公益社団法人
・医療法人
・宗教法人
・商工会議所
・税理士会
・日本税理士連合会
・日本赤十字社
・中央競馬会
・労働組合 など

人格のない社団等

法人でない社団又は財団で、代表者又は管理人の定めがあるものをいいます。
・PTA
・町内会
・同好クラブ
・マンション管理組合 など

適用要件

上記対象法人の課税期間における特定収入割合が5%を超える場合に適用しなければなりません。

逆を言うと、特定収入割合が5%以下であれば、国等の特例による制限計算は適用しなくてOKです。

特定収入とは

特定収入とは、ザックリいうと、消費税法上不課税収入となるような一方的に貰うお金をいいます。

例えば、
・補助金
・受取配当金
・保険金
・寄附金
などの収入をいいます。

ただし、以下の収入は特定収入とはなりません。
・非課税仕入れ(例えば、給与の支払い、土地の購入など)や不課税支出(税金の支払いなど)に充てられることが確定している収入
・特定収入に該当しない収入(一定の借入金、預り金、貸付回収金、返還金、還付金など)

特定収入=一方的に貰うお金(非課税仕入れ・不課税支出に充てるもの、特定収入に該当しないものを除く)

以下、根拠条文等を載せますが、真剣に解読しようとすればするほど訳が分からなくなります(汗)
目を通す方は、参考程度に!

(国、地方公共団体等に対する特例)
消費税法第六十条
4 国若しくは地方公共団体(特別会計を設けて事業を行う場合に限る。)、別表第三に掲げる法人又は人格のない社団等(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される者を除く。)が課税仕入れを行い、又は課税貨物を保税地域から引き取る場合において、当該課税仕入れの日又は課税貨物の保税地域からの引取りの日(当該課税貨物につき特例申告書を提出した場合には、当該特例申告書を提出した日又は特例申告に関する決定の通知を受けた日)の属する課税期間において資産の譲渡等の対価以外の収入(政令で定める収入を除く。以下この項において「特定収入」という。)があり、・・・

(国、地方公共団体等の仕入れに係る消費税額の特例)
消費税法施行令第七十五条
法第六十条第四項に規定する政令で定める収入は、次に掲げる収入とする。
一 借入金及び債券の発行に係る収入で、法令においてその返済又は償還のため補助金、負担金その他これらに類するものの交付を受けることが規定されているもの以外のもの(第六号及び次項において「借入金等」という。)
二 出資金
三 預金、貯金及び預り金
四 貸付回収金
五 返還金及び還付金
六 次に掲げる収入(前各号に掲げるものを除く。)
イ 法令又は交付要綱等(国、地方公共団体又は特別の法律により設立された法人から資産の譲渡等の対価以外の収入を受ける際にこれらの者が作成した当該収入の使途を定めた文書をいう。)において、次に掲げる支出以外の支出(ロ及びハにおいて「特定支出」という。)のためにのみ使用することとされている収入
(1) 課税仕入れに係る支払対価の額(法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額をいう。第四項において同じ。)に係る支出
(2) 法第三十条第一項に規定する特定課税仕入れに係る支払対価の額並びに同項に規定する特定課税仕入れに係る消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額(これらの税額に係る附帯税の額に相当する額を除く。)の合計額(第四項において「特定課税仕入れに係る支払対価等の額」という。)に係る支出
(3) 課税貨物の引取価額(課税貨物に係る第五十四条第一項第二号イに掲げる金額をいう。第四項において同じ。)に係る支出
(4) 借入金等の返済金又は償還金に係る支出
ロ 国又は地方公共団体が合理的な方法により資産の譲渡等の対価以外の収入の使途を明らかにした文書において、特定支出のためにのみ使用することとされている収入
ハ 公益社団法人又は公益財団法人が作成した寄附金の募集に係る文書において、特定支出のためにのみ使用することとされている当該寄附金の収入(当該寄附金が次に掲げる要件の全てを満たすことについて当該寄附金の募集に係る文書において明らかにされていることにつき、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成十八年法律第四十九号)第三条(行政庁)に規定する行政庁の確認を受けているものに限る。)
(1) 特定の活動に係る特定支出のためにのみ使用されること。
(2) 期間を限定して募集されること。
(3) 他の資金と明確に区分して管理されること。

(特定収入の意義)
消費税法基本通達16-2-1
法第60条第4項《国、地方公共団体等に対する仕入れに係る消費税額の計算の特例》に規定する「特定収入」とは、資産の譲渡等の対価に該当しない収入のうち、令第75条第1項各号《特定収入に該当しない収入》に掲げる収入以外の収入をいうのであるから、例えば、次の収入(令第75条第1項第6号《特定収入に該当しない収入》に規定する特定支出のためにのみ使用することとされているものを除く。)がこれに該当する。
(1) 租税
(2) 補助金
(3) 交付金
(4) 寄附金
(5) 出資に対する配当金
(6) 保険金
(7) 損害賠償金
(8) 資産の譲渡等の対価に該当しない負担金、他会計からの繰入金、会費等、喜捨金等

特定収入割合とは

特定収入割合とは、通常の消費税計算で使用する課税売上割合の「資産の譲渡等の税抜対価の額の合計額」と「特定収入の合計額」の合計額のうち、「特定収入の合計額」の占める割合のことをいいます。

特定収入割合=特定収入の合計額/資産の譲渡等の税抜対価の額の合計額+特定収入の合計額

この特定収入割合が5%を超えた場合に、国等の特例による制限計算が適用されます。

(国、地方公共団体等の仕入れに係る消費税額の特例)
消費税法施行令第七十五条
3 法第六十条第四項に規定する政令で定める場合は、当該課税期間における資産の譲渡等の対価の額(法第二十八条第一項に規定する対価の額をいう。次項及び第六項において同じ。)の合計額に当該課税期間における法第六十条第四項に規定する特定収入(以下この条において「特定収入」という。)の合計額を加算した金額のうちに当該特定収入の合計額の占める割合が百分の五を超える場合とする。

特定収入の種類

特定収入には、交付要綱等により使途が特定されている課税仕入れ等に係る特定収入(使途特定の特定収入)と、課税仕入れ等に係る特定収入以外の特定収入(使途不特定の特定収入)の2つに区分されます。

この2つの特定収入は、制限計算の方法が異なりますが、細かい計算方法は割愛します。

●使途特定の特定収入

交付要綱等(実績報告書などを含む)により、課税仕入れ等のためのみに使途が特定されている収入をいいます。

交付要綱については、ズバリ「建物の購入に充てる」と記載があるものもあれば、例えば「人件費、運営費、設備費に充てる」といった費目だけ使途が特定されているものもあります。

費目だけ使途が特定されている場合、収入の使い道を記載した書類(実績報告書など)により金額を区分します。

(国又は地方公共団体の特別会計が受け入れる補助金等の使途の特定方法)
消費税法基本通達16-2-2
国又は地方公共団体の特別会計において、資産の譲渡等の対価以外の収入がある場合における令第75条第1項第6号及び同条第4項《国、地方公共団体等の仕入れに係る消費税額の特例》の規定による使途の特定の方法は、次による。(平14年課消1-48、平20年課消1-2、平23課消1-35により改正)

(注)「使途の特定」とは、同条第1項第6号及び同条第4項に規定する「……のためにのみ使用することとされている……」に該当することとなる場合をいう。

(1)法令又は交付要綱等により補助金等の使途が明らかにされている場合
法令又は交付要綱等(令第75条第1項第6号イに規定する法令又は交付要綱等をいう。以下16-2-2において同じ。)に基づく補助金等(補助金、負担金、他会計からの繰入金その他これらに類するものをいう。以下16-2-2において同じ。)で当該法令又は交付要綱等において使途が明らかにされているもの 当該法令又は交付要綱等で明らかにされているところにより使途を特定する。
この場合の交付要綱等には、補助金等を交付する者が作成した補助金等交付要綱、補助金等交付決定書のほか、これらの附属書類である補助金等の積算内訳書、実績報告書を含むものとする。

(注)令第75条第1項第1号に規定する借入金等(以下16-2-2において「借入金等」という。)を財源として行った事業について、当該借入金等の返済又は償還のための補助金等が交付される場合において、当該補助金等の交付要綱等にその旨が記載されているときは、当該補助金等は当該事業に係る経費のみに使用される収入として使途を特定する。なお、免税事業者であった課税期間に行った事業の経費に使途が特定された当該補助金等は、特定収入(法第60条第4項《国、地方公共団体等に対する仕入れに係る消費税額の計算の特例》に規定する特定収入をいう。以下16-2-5までにおいて同じ。)に該当しないことに留意する。

●使途不特定の特定収入

課税仕入れ等に係る特定収入以外の特定収入を、使途不特定の特定収入といいます。

交付要綱等で使途が判別できない収入や、交付要綱等が存在しない保険金・寄附金等の収入が該当します。

国等の特例計算の選択

国等の特例は、消費税の原則計算の中の特例計算という位置づけですが、その特例計算には「法令による特例計算(原則)」と「通達による特例計算」があります。

特例計算の方法は納税者が任意で決めることができ、また、毎期異なる方法により計算しても差し支えありません。その際に特別な手続きは必要ありません。

法令による特例計算(原則)

「法令による特例計算(原則)」とは、消費税法施行令第75条第4項に基づいて行う計算方法です。

使途特定の特定収入と使途不特定の特定収入とに区分し、
・使途特定の特定収入に係る仕入税額と、
・使途不特定の特定収入に調整割合を乗じて計算した仕入税額
との合計額を、特例計算の制限税額とする計算方法です。

調整割合とは、下記の算式により計算された割合をいいます。
使途不特定の特定収入の場合、その収入による課税仕入れがどのくらい行われたか不明であるため、合理的に計算される調整割合を制限税額に考慮する必要があります。

調整割合=使途不特定の特定収入の合計額/資産の譲渡等の税抜対価の額の合計額+使途不特定の特定収入の合計額

(国、地方公共団体等の仕入れに係る消費税額の特例)
消費税法施行令第七十五条
4一ロ
・・・調整割合(当該課税期間における資産の譲渡等の対価の額の合計額に当該課税期間における課税仕入れ等に係る特定収入以外の特定収入の合計額を加算した金額のうちに当該課税仕入れ等に係る特定収入以外の特定収入の合計額の占める割合をいう。・・・

通達による特例計算

「通達による特例計算」とは、消費税法基本通達16-2-2に基づいて行う計算方法です。

使途特定の特定収入と使途不特定の特定収入とに区分することは「法令による特例計算(原則)」と同様ですが、使途不特定の特定収入を合理的な方法により、
・使途特定の特定収入
・非課税仕入、不課税支出に充てられる収入
に区分し、正式な使途特定の特定収入と、合理的方法により算出された使途特定の特定収入の合計額をもって、制限税額を計算します。

ただし、この合理的な方法により使途を特定する場合には、補助金等の交付元である国・地方公共団体がその補助金等の使途を明らかにした文書を確定申告書とともに納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。

(国又は地方公共団体の特別会計が受け入れる補助金等の使途の特定方法)
消費税法基本通達16-2-2
(2) 国又は地方公共団体が合理的な方法により補助金等の使途を明らかにした文書において使途を特定する場合
(1)により使途が特定されない補助金等については、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる方法により使途を特定することができる。
イ 法令又は交付要綱等がある補助金等で当該法令又は交付要綱等においてその使途の細部は不明であるが、その使途の大要が判明するもの  国(特別会計の所管大臣。以下16-2-2において同じ。)又は地方公共団体の長(地方公営企業法第7条の適用がある公営企業にあっては管理者。以下16-2-2において同じ。)が令第75条第1項第6号ロに規定する文書においてその使途の大要の範囲内で合理的計算に基づき細部の使途を特定する。
ロ イにより使途が特定できない場合で、補助金等の使途が予算書若しくは予算関係書類又は決算書若しくは決算関係書類で明らかなもの  国又は地方公共団体の長がこれらの書類で明らかにされるところにより、令第75条第1項第6号ロに規定する文書においてその使途を特定する。
ハ 「法令又は交付要綱等」又は「予算書、予算関係書類、決算書、決算関係書類」において、借入金等の返済費又は償還費のための補助金等とされているもの((1)の注に該当するものを除く。)  当該補助金等の額に、当該借入金等に係る事業が行われた課税期間における支出((1)又はイ若しくはロにより使途が特定された補助金等の使途としての支出及び借入金等の返済費又は償還費を除く。)のうちの課税仕入れ等の支出の額とその他の支出の額の割合を乗じて、課税仕入れ等の支出に対応する額とその他の支出に対応する額とにあん分する方法によりその使途を特定し、これらの計算過程を令第75条第1項第6号ロに規定する文書において明らかにする。
なお、地方公営企業法第20条《計理の方法》の適用がある公営企業については、同法施行令第9条第3項《会計の原則》の損益的取引、資本的取引の区分ごとにこの計算を行うものとする。
(注) 当該借入金等に係る事業が行われた課税期間が免税事業者であった場合の当該補助金等は、特定収入に該当しないことに留意する。
二 イからハまでによっては使途が特定できない補助金等  当該補助金等の額に、当該課税期間における支出((1)又はイ若しくはロにより使途が特定された補助金等の使途としての支出及び借入金等の返済費又は償還費のうちハにおいて処理済みの部分を除く。)のうちの課税仕入れ等の支出の額とその他の支出の額の割合を乗じて、課税仕入れ等の支出に対応する額とその他の支出に対応する額とに按分する方法によりその使途を特定する。
この場合、これらの計算過程を令第75条第1項第6号ロに規定する文書において明らかにする。
また、この按分計算において、借入金等の返済費又は償還費でハにおいて処理済みの部分以外の部分に使途が特定されていることとなった補助金等の部分については、更にハの方法で当該借入金等に係る事業が行われた課税期間に遡って使途を特定する。
なお、地方公営企業法第20条の適用がある公営企業については、同法施行令第9条第3項の損益的取引、資本的取引の区分ごとにこの計算を行うものとする。

交付要綱等の解釈

交付要綱等とは、以下のように定義されています。

●法令による特例計算(原則)
消費税法施行令第75条第1項
「国、地方公共団体又は特別の法律により設立された法人から資産の譲渡等の対価以外の収入を受ける際にこれらの者が作成した当該収入の使途を定めた文書をいう」

●通達による特例計算
消費税法基本通達16-2-2(1)
「補助金等を交付する者が作成した補助金等交付要綱、補助金等交付決定書のほか、これらの附属書類である補助金等の積算内訳書、実績報告書を含むものとする」

法令による特例計算を原則としますが、通達による特例計算により合理的に使途を特定する方法を採用することができます。

そこて問題となるのが交付要綱等の定義で、通達のほうが交付要綱の他に実績報告書などにまで範囲が及んでおり、計算方法により交付要綱等の範囲が異なるのかどうかという点です。

この点について、消費税法基本通達16-2-2(1)の交付要綱等の定義は、消費税法施行令第75条の交付要綱等の定義を補完するものであると考えられるため、交付要綱等の範囲については、どちらの計算方法を採用しても変わらないものと考えられます。

したがって、計算方法を選択する前提として、
・消費税法施行令第75条+消費税法基本通達16-2-2(1)→法令による特例計算(原則)
・消費税法基本通達16-2-2(2)→通達による特例計算
という考え方に基づくと思われます。

実際に、国税庁が作成している「国、地方公共団体や公共・公益法人等と消費税」という国等の特例の手引きも、このような考え方に基づき計算パターンが組まれています。
国税庁HP「国、地方公共団体や公共・公益法人等と消費税」

特例計算のフローチャート

①実績報告書等を含む交付要綱等により、「特定収入」と「特定収入以外の収入」に区分する。

特定収入を、「使途特定の特定収入」と「使途不特定の特定収入」に区分する。(ここまでが「法令による特例計算(原則)」)

使途不特定の特定収入を、通達による合理的な方法で「使途特定の特定収入」と「特定収入以外の収入」に区分する。(「通達による特例計算」)

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