配偶者や扶養親族に退職所得がある場合の所得控除について(所得税と住民税の違い)

こんにちは!
サラリーマン税理士のりゅうです。

年末調整もピークを迎え、会計事務所はバタバタする時期となっています。

令和5年分の扶養控除申告書もこの時期に提出すると思いますが、退職金を受けた配偶者や扶養親族を書く欄が増えたりと、微妙に様式が変わっています。

そこで今回は、配偶者や扶養親族に退職所得がある場合の、納税者の配偶者控除(配偶者特別控除)や扶養控除の適用について簡単に解説します。

【この記事でわかること】
♦退職所得の計算方法
♦退職所得の所得税額の計算方法
♦配偶者や扶養親族に退職所得があった場合の所得控除
♦所得税と住民税の合計所得金額の範囲の違い
♦所得税で適用不可の所得控除が住民税で受けられる可能性
♦退職所得の受給に関する申告書の提出がない場合の住民税計算

退職所得の計算方法

退職所得の金額は、下記のように計算します。

退職所得の金額=(収入金額△退職所得控除額)×1/2

退職所得控除の金額は、
勤続年数が20年以下であれば【40万円×勤続年数】
勤続年数が20年超であれば【800万円+70万円×(勤続年数△20年)】
で計算します。

(退職所得)
所得税法第三十条
退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下この条において「退職手当等」という。)に係る所得をいう。
2 退職所得の金額は、その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の二分の一に相当する金額(当該退職手当等が、短期退職手当等である場合には次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とし、特定役員退職手当等である場合には当該退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額に相当する金額とする。)とする。
一 当該退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額が三百万円以下である場合 当該残額の二分の一に相当する金額
二 前号に掲げる場合以外の場合 百五十万円と当該退職手当等の収入金額から三百万円に退職所得控除額を加算した金額を控除した残額との合計額

退職所得の所得税額の計算方法

退職所得は、他の所得とは分離して所得税額を計算します。

また、「退職所得の受給に関する申告書」の提出の有無で計算方法が異なります。

提出している場合

退職所得の金額((収入金額△退職所得控除額)×1/2)に応じた所得税が源泉徴収されて完結するため、原則として確定申告は不要です。

ただし、医療費控除などを受けるために確定申告をする場合、確定申告は全ての所得について申告をする必要があるため、この退職所得についても申告書に記載する必要があります。

提出していない場合

退職金の収入金額(退職所得控除額を引く前の金額)に20.42%を乗じて源泉徴収されます。

この場合、確定申告をすると「(収入金額△退職所得控除額)×1/2」で所得税の計算することができますので、他に源泉徴収されていないような所得が無ければ、差額分を精算する(還付を受ける)ことができます。

(源泉徴収義務)
所得税法第百九十九条
居住者に対し国内において第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等(以下この章において「退職手当等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その退職手当等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

(徴収税額)
所得税法第二百一条
第百九十九条(源泉徴収義務)の規定により徴収すべき所得税の額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める税額とする。
一 退職手当等の支払を受ける居住者が提出した退職所得の受給に関する申告書に、その支払うべきことが確定した年において支払うべきことが確定した他の退職手当等で既に支払がされたもの(次号において「支払済みの他の退職手当等」という。)がない旨の記載がある場合
次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額を課税退職所得金額とみなして第八十九条第一項(税率)の規定を適用して計算した場合の税額
イ その支払う退職手当等が一般退職手当等(第三十条第七項(退職所得)に規定する一般退職手当等をいう。次号イ及び第二百三条第一項第二号(退職所得の受給に関する申告書)において同じ。)に該当する場合 その支払う退職手当等の金額から退職所得控除額を控除した残額の二分の一に相当する金額(当該金額に千円未満の端数があるとき、又は当該金額の全額が千円未満であるときは、その端数金額又はその全額を切り捨てた金額。次号イにおいて同じ。)
3 退職手当等の支払を受ける居住者がその支払を受ける時までに退職所得の受給に関する申告書を提出していないときは、第百九十九条の規定により徴収すべき所得税の額は、その支払う退職手当等の金額に百分の二十の税率を乗じて計算した金額に相当する税額とする。

配偶者や扶養親族の所得計算

納税者が配偶者控除(配偶者特別控除)や扶養控除を受ける場合、配偶者や扶養親族の所得次第でその控除適用の有無が決まります。

例えば扶養親族に、
・給与収入90万円
・退職金収入410万円(勤続年数10年)
がある場合の所得計算は、下記のようになります。

<給与所得>
収入90万円△給与所得控除額55万円=35万円
<退職所得>
{収入410万円△(40万円×10年)}×1/2=5万円

この場合、扶養親族の合計所得金額は、
給与所得35万円+退職所得5万円=40万円
となり、年間の合計所得金額が48万円以下となるため、納税者は扶養控除を受けることができます。

退職所得の源泉徴収の税額計算において、「退職所得の受給に関する申告書」の提出の有無で計算方法が異なりますが、これはあくまでも税額計算における算式であるため、「退職所得の受給に関する申告書」の提出の有無にかかわらず所得計算については「(収入金額△退職所得控除額)×1/2」で判定すると考えられます。

(定義)
所得税法第二条
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三十三 同一生計配偶者
居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの(第五十七条第一項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第三項に規定する事業専従者に該当するもの(第三十三号の四において「青色事業専従者等」という。)を除く。)のうち、合計所得金額が四十八万円以下である者をいう。
三十四 扶養親族
居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)並びに児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第二十七条第一項第三号(都道府県の採るべき措置)の規定により同法第六条の四(定義)に規定する里親に委託された児童及び老人福祉法(昭和三十八年法律第百三十三号)第十一条第一項第三号(市町村の採るべき措置)の規定により同号に規定する養護受託者に委託された老人でその居住者と生計を一にするもの(第五十七条第一項に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第三項に規定する事業専従者に該当するものを除く。)のうち、合計所得金額が四十八万円以下である者をいう。

所得税と住民税の退職所得の違い

合計所得金額の範囲について、所得税と住民税で異なるため、注意が必要です。

所得税→退職所得含む
住民税→退職所得除く

住民税は、前年中の所得に対してその翌年に課税されますが(前年所得課税)、退職所得については納税者の退職後の負担等を考慮して、他の所得と分離して退職所得の発生した年に課税する方法(現年分離課税)を取っており、退職金から天引き(特別徴収)される仕組みとなっています。

したがって、退職所得発生年に既に退職所得の住民税は課税されているため、退職所得を除く合計所得金額に対して翌年の住民税が課税されることとなります。

(退職所得の課税の特例)
地方税法第三百二十八条
第二百九十四条第一項第一号の者が退職手当等(所得税法第百九十九条の規定によりその所得税を徴収して納付すべきものに限る。以下本款において同じ。)の支払を受ける場合には、当該退職手当等に係る所得割は、第三百十三条、第三百十四条の三及び第三百十八条の規定にかかわらず、当該退職手当等に係る所得を他の所得と区分し、本款に規定するところにより、当該退職手当等の支払を受けるべき日の属する年の一月一日現在におけるその者の住所所在の市町村において課する

住民税における配偶者控除等の判定

所得税と住民税の合計所得金額の範囲が異なることから、所得税では適用できなかった控除等が住民税で適用できるケースがあります。

配偶者控除等(納税者本人の合計所得金額)

配偶者控除や配偶者特別控除については、控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超えると、控除を受けることができません。

しかし、住民税は退職所得が合計所得金額に含まれませんので、退職所得を除いた合計所得金額が1,000万円以下となるのであれば、住民税については配偶者控除等を受けることができます。

ただし、所得税計算における年末調整(給与支払報告書)や確定申告のデータが役所に回りますので、所得税で配偶者控除等を受けていなければ、役所が計算する住民税についても自動的に配偶者控除等は適用ナシで計算されます。

したがって、退職所得を除けば合計所得金額が1,000万円以下となるような場合には、別途住民税申告を行うことで配偶者控除等を受けられるようになります。

扶養控除(扶養親族の合計所得金額)

扶養控除については、扶養親族の合計所得金額が48万円を超えると、控除を受けることができません。

しかし、扶養親族の退職所得を含めた合計所得金額が48万円を超えていたとしても、退職所得を除く合計所得金額が48万円以下であれば、納税者は住民税で扶養控除を受けることができるので、納税者の住民税を減らすことができます。

また、令和5年分の扶養控除等申告書より、「退職手当等を有する配偶者・扶養親族」の欄が新設されました。

この記載を行うことにより、年末調整(給与支払報告書)にてその情報が役所へ回るため、それに基づいて住民税が計算されるようになると思われます。

その他有利になるケース

・配偶者控除等(配偶者の合計所得金額)
・ひとり親子控除(納税者の合計所得金額が500万円以下で適用できる所得控除)

「退職所得の受給に関する申告書」の提出がない場合の住民税

「退職所得の受給に関する申告書」の提出がない場合、所得税については退職金の収入金額(退職所得控除額を引く前の金額)に対して20.42%の税率を乗じて計算しますが、住民税については提出の有無にかかわらず、「(収入金額△退職所得控除額)×1/2」に対して通常の税率を乗じて計算されます。

最新情報をチェックしよう!